ボールペンが取り出しやすいペン立て

なぜこれを作ったのか

私は1日に何度も繰り返す作業では、時間は1秒でも、手の動きは1cmでも、縮める工夫をするのが好きなタイプです。逆にムダな動きを強いられるとストレスを感じます。

そんな私は、筆記の度にテーブルに置かれたボールペンを拾い上げてクルッと回して構えてからやっと書く。書き終わったらまたテーブルに置くというムダな動きがストレスでした。事務仕事が増加するに連れてイライラも増してきました。

「ペン立てを使おう」
ペン立てを使えば拾い上げて構える動作は不要になります。
そう考えましたが、ここから「ペン立て難民」としての流浪が始まります。

一般的なペン立ては筒型でペンがたくさん入るように大きく作られています。
大きなペン立ては作業の邪魔になるのでデスクの特等席(手元)に置けません。デスクの奥に据え置くことになり、ペンの出し入れのたびに、手を何十cmも動かさないといけません。

一本差しの小さいペン立てもいくつも試しました。
ホテルのフロントにあるようなボールポイントで角度調整できるタイプ。垂直に保持されるタイプ。最終的に行き着いてしばらく使っていたのが、ネットで広く販売されている黒アルマイトの38x38x30mmのペン立てです。手元に置いて邪魔にならない小サイズです。

しかしこのペン立てでもストレスは解消されませんでした。世の中にあるペン立てに共通している課題(ストレス源)は、ペンを上に持ち上げないと筒から取り出せないことです。この課題はニッチ過ぎて誰も解決してくれなさそうです。 

課題設定 これが解決したら面白い

  1. ペンを持ち上げなくても出し入れできること
  2. 安定して保持できること
  3. 最初から筆記角度で保持されていること
  4. 手元において邪魔にならない小サイズであること
  5. 出し入れのタイムロスが最小であること
  6. 自分で小ロット製造できること

解決手段 試作の要素

筒型の壁の一部をザグって開放する。その際ボールペンが開放部から転倒しないように対向する凹構造で支持しないといけません。この基本の設計思想に基づいて図面を描いて加工業者に依頼しました。最初期の試作写真を掲載します。(使い勝手はさて置き課題1の解決はなされました)

ステンレスで安定感は十分ですが、ペンの取り出し時に角部にひっかかって取り出しがスムーズにいきません。金属の切削加工は費用も時間もかかるので、トライ&エラーの微調整ができません。そこで価格も安くなっていた3Dプリンタを導入して形状の追究をすることになります。

ボールペンを支持する凹部の内角度を鋭角にするほど保持が安定しますが、取り出しの際に壁面が移動の妨げになります。「保持の安定性」と「取り出しやすさ」はトレードオフの関係と見ることもできますがどちらも妥協することなく、実用上問題ない安定保持と取り出しやすさを両立させる最適形状を導き出しました。(2)

収納角度もこだわった設計をしました。筆記角度(70°とする)からわずかに倒れた角度で収納されるようにしました。ペンを握るとペンがわずかに起き上がり凹部から逃げるので、筆記角度のまま横へ取り出してそのまま筆記ができます。「出し入れの度にペンの角度を大きく傾け直す」ということも私にとっては解決すべき課題でした(3)

ボールペンの重さは10 ~ 30 gです。3Dプリンタで作っただけの樹脂では軽すぎてボールペンを支えられないので、小サイズを実現するには全て金属製にするか一部に金属を使う必要があります。
アルミ(比重 2.7)、ステンレス(比重 7.9)、真鍮(比重 8.5)。材料費、加工費など多くの要素を検討することになります。

最終的に、規格品の真鍮ブロックを無加工で使い、ペン保持部は柔軟に3D設計できる、良いとこ取りの製造設計で、ペンの安定保持に十分な重量(78g)と小サイズを両立させることができました。底部には極薄の滑り止めシートを貼りました。見た目を裏切る重量と安定感にみなさん驚かれます(4)
この製法は、高価な切削加工が不要です。高価な型を作っての射出成形も不要です。初期投資も不要で、必要な分だけ3Dプリンタと手作業で製造することができます。ニッチプロダクトには最適な製法が実現しました(6)

試作と検証でブラッシュアップは続きます。
ペンの軸を受ける後部の柱は当初30mmの高さがありました。この柱が高いとペンを握る時に中指がこの柱と干渉します(ストレスポイントです)。後部の柱もペンの保持に必要な高さまで下げる最適化を行いました。現行品は高さが20mmで、ペンの出し入れの際に指がぶつかることはありません。

取り出してすぐ書くためにペン先は出したまま収納するのが基本です。
水性インクやゲルインクは粘性が低くてペン先が触れる箇所の材質によってはインクがじわじわと滲み出してしまいます。3Dプリンタの樹脂ではインクが滲み出しやすい問題がありました。
そこでペン先が収まる凹部に撥水撥油の特殊コーティングを施すことで、インクの滲み出し問題を解決しました。

各所の寸法を1mm単位で調整し、軸径 10 ~ 12 mmのボールペンで最適となる形状に追い込みました。形状の追究に際しては私のお気に入りのジェットストリームボールペンを主に使用しました。全国のジェットストリームユーザーはこのペン立てを最大効率でお使いいただけること間違いなしです。こうしてペンの出し入れのタイムロスも最小になりました(5)

これらのアイデアが詰まった設計と形状は、実用新案と意匠を登録してあります。

開発品

筆記までの経路

こうして、私の筆記ストレス問題は解決されました。そして、開発してみればこれは取り出しと収納が世界一速いペン立てと呼べます。これより速く書けるペン立てを見つけたら教えてください。

このページではLab Notesとして開発ストーリーを掲載しました。

関連リンク